オーストラリア大陸・そしてその自然を5万年も守り続けてきた最初の住人アボリジニは現在にいたるまで昔と全く変わらぬ生活を送っています。 彼等は私たち現代人が溢れるほどに持っている加工されたものを一切必要とせず、あの広い大陸を地図も手帳もコンパスも何も持たずに自由自在に歩き回っていた狩人なのです。それでも、必要であれぱいかなる状況ででも水や食料のありかを確実に見つけ出す能力を持っていました。何万年にもわたって自然環境と共存して生きてきた彼等のライフスタイルは現代人の常識には計り知れないことです。 　彼等には「読む」・「書く」といった文字がありません。そのため絵を描くことは彼等にとって非常に大事なコミュニケーションの手段でした。 “絵”という手段を使って彼等はあらゆる情報伝達を行ってきました。中央砂漠に住むアボリジニたちはその情報をもともとは大地の上に天然の粘土を使って砂絵として、また身体の上にボディペインティングとして描いてきました。 　それが、1971年にイギリス人の美術教師ジェフリー・バーデンの指導によりパパニヤ地方(アリススプリングより北西270キロ)で初めて現代的な素材が使われるようになり現在ではキャンバス地にアクリル絵の具で主にドットペインティングと呼ばれる点描で描かれるのが主流となりました。これらは一見、点と線だけにしか見えない抽象的なアートですがアボリジニたちにとっては文字に変わる具体的な記録の手段であるのです。 　この自由な色使い・そしてユニークで斬新なアートであるドットペインティングが今や現代風伝統芸術として非常に注目をされてきています。 　アボリジナルアートはまさに大地から生まれたアートです。“ドリーミング”と言われる彼等の先祖の時代の天地創造にまつわる神話や伝説は神聖なる儀式の中で何万年も大地に描き示されることにより・部族間の秘密を守りつつ次の世代へと確実に継承されているのです。